こんにちは。
ペドリの契約延長が正式に決まったということでとてもハッピーな気持ちです。
さて、今シーズンのバルセロナは言わずもがなバルサっぽくないサッカーをしています。ぶっちゃけ昨シーズンだって一昨シーズンだってバルサっぽくはなかったのですが、今シーズンはその傾向がさらに強いです。対してスペインはユーロ2020以降調子を上げております。特にイタリア戦は久しぶりにスペインっぽさを感じました。どちらのチームにおいても中心としてプレーをするペドリですが、活躍の仕方がちょっと異なるように思えます。
バルサではイニエスタ寄りのラキティッチとして、スペイン代表ではイニエスタの後継者として活躍しているように感じるのです。
ということで、今回はスペインのペドリとバルセロナのペドリを比較して、そこら辺を見ていきたいと思います。
※ソース:fbref&whoscored 対象コンペティション:Euro2020・LaLiga2122・CL2122 (データ量的には少ないですが、とりまそこは無視します。)
スペイン代表のペドリとバルセロナ(21/22)のペドリをデータで比較する
Rader Chartで見る
各項目の説明はこちら
1. SCA90_SCA -> 90分あたりのシュートチャンス創出アクション数
2. GCA90_GCA -> 90分あたりのゴール創出アクション数
3. xA_per90Minutes -> アシスト期待値
4. Success%_Dribble -> ドリブル成功率
5. Cmp%_Total -> パス成功率
6. TB_Pass_Type -> スルーパス数
7. Press_Pass_Type -> 被プレス時のパス数
8. Sw_Pass_Type -> サイドチェンジ数
9. KP -> キーパス数
10. PPA -> ペナルティーエリア内へのパス数
11. 1/3 -> ビッチ1/3へのパス数
12. Prog -> プログレッシブパス数
ペドリはEURO2020で628分間プレーしました。一方バルセロナではリーガ+CLで合計308分間プレーしています。
上図のレーダーチャートの数値は90分あたりに直してます。レンジは両方ともリーガ基準です。なので例えば「SCA90_SCA」という項目でペドリは両コンペティションにおいてかなり良い数値を出してますが、これはあくまでリーガの中で上位に位置してることを意味しています。
チャート見ると同じ選手なので当然っちゃ当然なのですが、似たような分布の形になってることが分かります。
- SCA90 | Euro > Barca
- GCA90 | Euro > Barca
- xA | Euro > Barca
- SucDri | Barca > Euro
- Cmp% | Euro > Barca
- TBPass | Barca > Euro
- PressPass | Barca > Euro
- SwPass | Barca > Euro
- KP | Euro > Barca
- PPS | Barca > Euro
- 1/3 | Barca > Euro
- Prog | Barca > Euro
詳細に見ると上記の通り12項目中7項目でスペインのペドリの方が優秀であることが示されていますが、明確な差が発生した項目は「アシスト期待値」くらいです。逆に12項目中5項目でバルサのペドリの方が優秀であることが示されてる訳ですが、こちらも明確な差は発生していません。
正直、予想していた結果はガッツリスペインのペドリが優勢という結果だったのですが、レーダーチャート上では大きな差はないようでした。
もちろんペドリは両コンペティションで良いパフォーマンスを発揮しているので、実際に大きな差が発生していない可能性も十分に考えられますが、冒頭に書いた通り活躍の仕方は異なっているように見えました。
また、そもそもレーダーチャートには「チャート上での優劣の指す意味が『回数が多い』とか『成功率が高い』とか量的な話で終わりがちで、それが効果的だったかどうかまでは言及できていない」という問題があります。
なのでこのチャートだけでスペインのペドリとバルサのペドリは同じようなプレーをしている!と決断つけるのは時期尚早な感じがします。
ということで次はこれを踏まえた上で質的にパスがどうだったかに関して言及すべく、xTという指標を組み込んだPassSoner図を見ようと思います。
xT&Pass Sonerで見る
Pass Soner?
このパスソナー図では以下を表現してます。
1. バーの向きー>パスの方向
2. バーの長さ->パス本数
3. バーの色->xT(緑、黄色、赤の順にxTの値が高くなってます)
xT?
xTは、ゴールに直結する部分のプレーはxG・xAという形である程度評価できるようになってるが、間接的に(後に)ゴールに繋がるパス・ドリブルなどのプレーはどう評価していいか分からない、もしくは見逃されがちという問題の一つの答えとなる指標です。
「イニエスタが天才的ダブルタッチからアルバに天才的なスルーパスを通して、アルバの折り返しをコウチーニョが押し込んだ」という場面も、xG・xAだけではアルバとコウチーニョしか評価できないですが、xTがあればイニエスタも評価できるかも!という訳です。
この数値はざっくり言うと「パスやドリブルなどでエリアを移動した時に得点可能性がどれだけ変化したか?」を計算することで算出されているようです。詳細な算出方法はここでは説明しませんが、とりあえずウォーターセブン編でラスボス枠のロブルッチを倒したルフィーを評価するのがxG・xAで、世界政府の旗を撃ち抜いて開戦の火蓋を切ったそげキングを評価するのがxTという理解があればいいでしょう。
以下、そのパスソナー図です。左がスペイン代表でのペドリ、右がバルセロナでのペドリです。
(↑画像のLeftとRightのラベル間違いました。頭の中で訂正していただければと思います。)
ペドリはスペイン代表では425本のパスを出しています。90分あたりでは約60本です。一方でバルセロナでは159本のパスを出しており、90分あたりだと約46本です。
Focus on Bar Length
まずはバーの長さ(パス数)に注目して見ましょう。
(このバーの長さはそのチームにおける相対的な値なのでスペインのバーがバルセロナのバーより短いからといって、パス数が少ないというわけではないことに注意してください。)
前向きのパス(0〜180度)の割合は、スペインでは47.0%、バルセロナでは48.4%です。
また、スペインでもバルセロナでも左前方(90〜180度)へのパスの方が多いというのも共通しているようで、スペインでは左28.7%、右18.3%。バルセロナでは左28.2%、右20.1%となっています。
しかし分布の様子は左右それぞれで違いがありそうです。
まず左前方です。スペインでは105度から140度にかけて満遍なくパスを出してるのに対して、バルセロナでは105度から120度もしくは150度から165度にパスが集中していることが分かります。
次に右前方です。バルセロナでは真横へのパス(0~30度)が右の60%を占めてる一方で、スペインでは真横へのパス(0~30度)が右の34%しか占めていません。つまりスペインのペドリが右にパスを出すときの角度は斜めもしくは縦パスが多くを占めていることが分かります。
ここまでを簡単にまとめると、
スペインのペドリとバルセロナのペドリ、どっちかでより後ろ向きのパスを出しているということは無く、左右への偏りも共通している。
しかし、分布の仕方がスペインのペドリとバルセロナのペドリでは異なっており、スペインでは多角的で斜めから縦寄りのパスを出す傾向がある一方で、バルセロナでは斜めから横寄りのパスを出す傾向がある。斜めから縦に出す場合もあるが限定的である。
ということになります。
Focus on Bar Color
バーの長さを見ることで、スペインのペドリとバルセロナのペドリでパスの傾向に差があることが確認できました。しかしレーダーチャートの所で少し言及したように、ただ多角的に縦寄りのパスを多く出してれば素晴らしいという話にはなりません。結局それがどうゴールに影響したかを考慮して初めてそのパスに意味を見出せます。
そのために次はバーの色に注目して見ましょう。緑->オレンジ->赤の順に質の高いパス(得点可能性の伸び幅が大きい)という解釈です。
左前方へのパスを見ると、スペインでは全体的にオレンジから赤色をしていることが分かります。これは各コースで多くのチャンスを作っていることを意味します。
一方でバルセロナでは一つのコース(120度〜135度)を除けば、黄色から緑をしており、ほとんどのコースで効果的なパスが出せてないことが分かります。
そして右と真正面に関しても同様の結果が出ています。 特にバルセロナの真正面(60〜90度)へのパスの質はバックパスと同様というのは結構ビビります。バルセロナではペドリが縦に入れても大きなチャンスを迎えていないということになります。
レーダーチャートを見ると、スペインのペドリとバルセロナのペドリの間に明確な差は無く、なんならペナルウティーエリアへのパス数はバルセロナのペドリの方が多いくらいなのですが、実際には多くの角度で効果的なパスを通してるのはスペインのペドリということが分かりました。
ペドリの最適解を考える
この「量は基本的に似通ってるのに質は大きく異なっている」という結果は、ペドリがバルセロナで活躍できていないということを示すものではありません。言わずもがなバルセロナでも攻守においてペドリは不可欠な存在です。
では何を示しているのか。
とりあえず、この結果を生む要因を考えていきます。
まずは「スペインとバルセロナのスタイルの違い」があるでしょう。
チームのスタイルの違い
データ的にいくつかの観点がありますが、一番わかりやすいのは上記のブログで書いた「アタッキングサード以降のパス数」でしょうか。
もちろんボールを回せるかどうかは相手の守備にある程度依存します。相手が後ろで構えれば回すだけなら楽勝です。しかしそれを考慮しても今季は回せてないです。
次に「役割の違い」もあると思います。
役割の違い
バルセロナでのペドリはラキティッチワークの割合が多いように思えます。一方でスペインではしっかりイニエスタワーク多めでプレーしてたように思えます。
これは右インサイドハーフに入る選手の違いだと思いました。スペインではコケが入ることが多い訳ですが、コケはラキティッチワークが得意な選手です。
一方バルセロナではフレンキーが入りますが、フレンキーは人への守備はコケ・ラキティッチより優れてますがスペース管理になると話が変わってきます。
またフレンキーはコケ・ラキティッチと違い圧倒的なプレス耐性と推進力があるので運べちゃいますし、フィジカル的にも優れてますからボックストゥボックス的にゴール前にも飛び出せます。なので、そのカバーを誰かがしなきゃいけない訳です。
確かにブスケツは圧倒的戦術眼を持ってますが、機動力という点では優れていません。またバルサのSBは基本的に高い位置を取ります。ということでペドリの重心が後ろになりやすいという構造になってるのだと思うのです。
この上記2つの違いはアタッキングサード以降のパス数の減少を示唆していると思います。
アタッキングサード以降のパス交換数が少ないというのは、プレーする高さが低くなっているという以外に個人依存な攻撃を行ってる、もしくは連携がないということも意味していると思います。そうなれば味方との関係性の中でセンスを発揮するペドリが質の高いパスを出す機会も当然減ることが予想されます。
アタッキングサードでのパス回数の減少
以下をご覧ください。
これはパスを出した場所から作ったヒートマップです。スペイン代表が左でバルセロナ右です。点がパスを出した場所を示しています。アタッキングサード以降は、点の色をそれぞれ赤と青にしてあります。
先ほど述べた通り、ペドリはスペイン代表では425本のパスを出しています。バルセロナでは159本のパスを出しています。
これをアタッキングサード以降で考えると、スペインだと163で全体の38%。バルセロナだと39で全体の24%です。やはり重心が低くなっています。
キーパス数を例に1シーズンでみるとどうなるか考えてみます。
Fbrefでのキーパスの定義は「Passes that directly lead to a shot」なのですが、ここではキーパスはアタッキングサード以降で発生するモノと仮定して計算してみます。あとスペインのペドリがデフォルトなテイでいきます。ペドリは平均23回に1.4回キーパスを出します。1シーズン(カップ戦とリーグ戦で50試合くらい?)で減少するパス数は600本ですから36本のキーパスが1シーズンで失われる訳です。
俺たちのメンフィスとグリジ
— Bucciaratin da ポテイト (@Bucciaratimes) July 4, 2021
ゴール期待値との差分、XGDに関してはメンフィスのが上。しかもプラス値なので決めて欲しい所で決めてくれそう。
一方でグリーズマンはマイナス値なので外すこともある。
でもCV率はグリーズマンのが強い。。。 pic.twitter.com/9wRel13RP3
そして上記のツイートを見てください。メンフィスの枠内シュート率は44%、ゴールコンバージョン率は29%なことが分かります。つまり、仮にペドリが36回メンフィスにキーパスを出すと、15回枠内にシュートが飛び、そのうち4回ゴールになる訳です。
結果としてバルセロナは4ゴール損し、ペドリは4アシスト損するのです。たかが4されど4です。ペドリがこれから先バルセロナで15年間くらいプレーしたと仮定すると、その間失われるアシスト数は60にもなります。やっぱペドリのアシストって高確率で美しいのでそれが60も失われるのは中々手厳しいものがあります。
もちろん、ここまで行ったものは仮定に仮定を重ねたものですし、単純計算の極みではあるのですが懸念すべき問題ではある気がします。
スペインとバルサの違いが要因で差が発生していると見られるスタッツは他にも存在していました。
下図もご覧ください。これは先ほどのパスソナー図のバーの長さをパス回数ではなく、パスの平均的な長さにして作ったものです。(さっきの図はパス回数が多ければ多いほどバーが長くなりましたが、この場合はその方向へのパスの平均距離が長ければ長いほどバーが長くなります。)
パスレンジの拡大
ペドリはバルセロナでプレーするとパスのレンジが全体的に広くなってることが分かります。全体の平均値はバルセロナだと19.8m、スペインだと16.1mなので結構違います。
これはショートパス主体の組織的なスペインと距離間が遠い個人依存なバルセロナを物語ってるように感じます。
ペドリの最適解
これまで挙げてきた要因を逆に考えると、ペドリは「距離間が近いと質が上がる」&「アタッキングサードにおけるパス回数が増えると質が上がる」ということになります。
つまり「量は基本的に似通ってるのに質は大きく異なっている」という結果は「ペドリの最適解があのバルセロナのスタイルに存在する」ということを示してるのだと僕は思うのです。
もしかしたら、「距離間が近くてアタッキングサードにおけるパス回数が増えれば質が上がるの当然じゃね?」と思った人もいるかもしれません。しかしながらそうでは無い選手もいます。
わかりやすい例を出すとフレンキーデヨングです。
フレンキーは相手陣地で60%、自陣で40%。ペドリは相手陣地で66%、自陣で34%です。 つまり相手陣地でより多くパスを出してるのはペドリになります。
下図は最初のパスソナーと同じで、左がフレンキー、右がペドリです。
フレンキーはペドリよりも自陣でバスを出してるのにも関わらず、質の高いパスを多く出していることが分かります。もはやスペイン代表のペドリと同じような図になってます。この機能不全のチームにおいてもこれだけの結果を残せるという事実からもフレンキーが世界最高のMFの1人と言われる理由が分かります。
もちろんこの比較はフレンキーがスペイン代表でプレーした図では無いので単純比較にはなりません。フレンキーもスペインのような「相手陣地で多くのパス回せて、味方と連携出来る」チームでプレーすれば、さらに質の高いプレーを見せてくれるかもしれません。
しかし、バルセロナを普段からご覧になってる方なら分かると思いますが、フレンキーは基本ソロプレイヤーです。
ゴリ運びをする際にもボックストゥボックスやる際にも大きなスペースがあった方がフレンキーには好都合でしょう。
またアタッキングサード以降でのプレーが増えても、得意の推進力は出せませんから寧ろプレーエリアとしては低めの方が相性が良いくらいです。
結局フレンキーは一人で0から6くらいまでやって「ほれ、ここまで持ってきてやったぞ」の選手です。ペドリにはできない芸当ですが、逆に味方との連携でペドリほど相乗効果は生まれないことは明白です(ペドリも十分運べます)。
なので個人的にフレンキーの最適解は今のバルサにあるとは言いませんが、ある程度個人依存寄りなチームにあると思ってます。
やはり「アタッキングサードで多くのパス回せて、味方と連携出来ればパスの質上がる」というのは普通じゃないのだと思われます。多分デパウルとかもフレンキー寄りの選手な気がしています。
まとめます。
ペドリの最適解は「いわゆるバルセロナ」のスタイルの中にあると思います。
もちろん「いわゆるバルセロナ」じゃなくてもペドリはバリバリやれruと思います。そこが一つの凄い所でもありますから。
しかしやっぱり世界が見たいのは奔走するペドリではなく、スモールスペースで遊んでるペドリなはずです。
正直前線が速くて強いやつらばっかならメッシが抜けたシーズンですし、この淡泊なバルセロナを許容するかもしれませんが、今の前線は強くて上手いけどそんな速くないメンフィス、弱くて下手で遅い電柱LDJという感じで、個人依存なサッカーをするにはメンツ的に弱い感が否めません。ペドリを犠牲にする意味がないです。
MSNの代償としてよく語られたイニエスタとブスケツの犠牲を、MSNがいないのに再現する必要は無いのです。とりあえずペドリを大切にするべきなのです。
以上です。ありがとうございました。
[番外編]フレンキーはココで使おう
個人的にファイナルサードにおいてフレンキーはペナへの突撃以外でペドリほど違いを作れる選手ではないと思ってます。ワンタッチで捌けないですし、ブロック間に割って入ってくドリブルもパスも得意としていないに見えるので。
また、メッシが退団した今フレンキーの突撃に合わせるロングレンジ高精度パスを出せる選手がいるかというと多分いません。なので後ろに置いた方がいい気がしています。シティのウォーカー的にカウンター阻止隊とかやらせたら面白いんじゃないでしょうか。
メンフィス中央、左のハーフスペースをペドリ、右ハーフスペースをガビ、左ワイドをアンス、右ワイドをデンベレかデミルかデスト。後ろをフレンキー、ブスケツ、ミンゲサ。さらにその後ろをアラウホ、ラングレかピケかエリガル。攻撃時はこれで見てみたいです。守備時はそのままフレンキーLBミンゲサRBにして後は適当に442でどうでしょう。